EXECUTIVE INTERVIEW
INTERVIEW 01
「目的」と「組織」と「ルール」をつくる。
この3つがなければ事業の成功はありえない。
株式会社ビーイングホールディングス
代表取締役
喜多甚一 氏
日頃から経営者や起業家の指導に尽力されていますが、事業を成功させるためにどんな話をしていますか?
「どんな事業でも成功するための要件が3つあると考えています。『目的』と『組織』と『ルール』です。まずは事業の目的を明確にする。次に目的に向かうための組織をつくる。そして『やるべきこと』と『やってはいけないこと』を整理してルールをつくる。サクセスブレインさんの『理念ピラミッド』はそれと似ていますね。『目的』『組織』『ルール』の3つが必要なことは、ビジネスだけではなく、政治の世界などにもあてはまりますよね。選挙で多くの支持を集める政治家は、公約という目的が明確です。そして公約を遂行する組織がきちんと出来上がっているし、その中でルールがしっかりと浸透している。そういう視点で選挙に出馬する人を見定めると、案外予想できるものです(笑)」
ビーインググループの『目的』は?
「『会社をつくる。人間をつくる。社会をつくる。』という経営目的を掲げています。何のためにビーインググループをやっているのかと問われたら、社会のお役に立てる人間づくりのために経営する、という答えになります。さらに付け加えると、優秀な人材を輩出することが我々の使命です。優秀な人材を採用することが大事なのではない。優秀な人材を輩出することが最重要テーマなんだ、と。この目的に対して、どんな組織をつくるか。いかなるルールが必要かですね」
M&Aを数多く手がけていますが、グループに迎えた会社を再生するときはどこから手をつけますか?
「『目的』『組織』『ルール』をほぼ同時並行でつくっていきますね。いきなりルールを変えると抵抗があるでしょ。なんのために事業をやるのか?という目的の部分をディスカッションしながら人材を見極め、徐々に組織を形作っていく。と同時に『これはやってはいけないですね』『こういうやり方でいきましょうね』ということを話し合いながらルール化していく。これが基本的なやり方です」
業績の悪い企業をM&Aすることが多い?
「そういうケースが多いですね。ただし、対象企業がどのような状況でも、我々は一度も債務免除をしていないんですよ。経営者も役員もほぼ変えません。その会社が低迷しているのは、やはり『目的』と『組織』と『ルール』の3つがないからなんです。だから、やみくもに人を変えたり組織をこねくりまわすのではなく、まずは考え方を変えていく。これまでどんな考えでやってきたのかを確認しながら、私たちの考え方を浸透させて、組織とルールをつくっていきます」
考え方を教えるのは非常に難しいのではないですか?
「上司には、部下に『時間の使い方』『頭の使い方』『心の使い方』を教える義務があります。人は『頭』と『心』の使い方が分かってくると、おのずといい考え方ができるようになります。とりわけ経営リーダーは、頭と心を使ってお金の使い方を決めるわけです。すなわち、正しい考え方でお金を使うようになる。それともうひとつ、考え方を押しつけたり振りかざすだけでは再生の道を辿れません。人材を見極め、見込みのある人にルールを教え、成果をあげさせる。一人の成功者を出すと、周囲は『そのやり方は正しい』と信じ込む。そうやって考え方やルールが全体に浸透し、組織が出来上がっていく」
そして組織として成果をあげられるようになる、と。
「そもそも組織というのは、一人ひとりの能力を補い合うものです。もともと個々の能力差なんてないわけですが、たとえば頼りなさそうに見える人でも成果をあげる人っているでしょ。うちの組織にもいますよ。一見すると心許ないリーダーなんですが、だからこそ周囲から可愛がられて、応援されて、パートタイムの女性の方々がものすごくがんばってくれるという(笑)。組織にはいろんな人がいていいんです。社会が多様化して、これまでにない価値観が生まれていく中で、多様性に富む組織づくりは必須です。全員が同じライオンでは立ちゆけないですし、軍隊のような組織をつくると、ひとつの意思決定で絶滅の一途をゆくことが往々にしてあります」
お話をうかがっているとビーインググループの成長要因が見えてきます。
「企業が成長していくために『面白いことをやろう』というカルチャーを醸成することは大事です。でも、理念や目的や道徳のないところに面白さを求めていくのは危険です。儲かるか儲からないかという物差しで何か面白いことをやろうとしてもうまくいきません。経済はもとより大切なのですが、経済原理からちょっと外れてみることも大切でしょう。儲けることに囚われているとバイアスがかかる。組織が固定概念に縛られていることに自ら気づくのは難しい。人として、組織として、正しい考え方にもとづいてやるべきこととやってはいけないことを仕分けする。どんな事業でもそれが肝要じゃないですか」